インプラントにおける治療の流れと治療期間の目安について

Tooth implant installation process, Medically accurate 3D illustration

「インプラント治療をしたいけど,治療期間はどの程度必要なの?」

「インプラント治療は時間がかかると言われて諦めた」

一般的にインプラント治療は入れ歯やブリッジと比較して治療期間が長いとされていますが,一般的には上顎では12カ月程度,下顎では6か月程度の治療期間が必要と言われています。多くの患者様はもちろん,治療を提供する歯科医師としても治療にかかる時間が短い方が嬉しいのですが,なぜこれほどの時間が必要かご存知でしょうか。また自分自身の治療期間の目安が気になる方も多いかと思います。

この記事では,「手術後どの程度で噛めるようになるの?」「インプラント治療で噛み合わせが回復するまでの時間が知りたい」という方に向けて,インプラント治療に必要な期間や,大まかな目安について解説していきます。

インプラントと骨の結合(オッセオインテグレーション)とは

多くのインプラントはネジのような形をしていることが多く,実際に手術では骨に穴をあけた部分にインプラントを回転させながらネジを入れるように埋め込んでいきます。木の板に木ネジを打ち込んだようなイメージですが,インプラントはただ物理的に埋め込まれているだけではありません。

身体の骨は新陳代謝を繰り返しており,古い骨は細胞に取り壊されて,また新しい骨が作られます。3-5年という周期で体全体の骨が作り替えられるといわれています。インプラントの周囲の骨でも,手術後からこの破壊と再生を繰り返すことで,チタンと骨が光学顕微鏡レベルで一体化して結合するという現象が起こります。これをオッセオインテグレーション(Osseointegration)と呼びます。

ただねじ込まれているだけではなく,オッセオインテグレーションが起こることでインプラントと骨が組織的に結合し,長期間安定して噛み合わせを支えることができるのです。

インプラント治療の流れ

ここでは一般的なインプラント治療の流れを解説します。

カウンセリング お口の中の精密検査

まずは患者さんのお話をしっかりとうかがいます。現在のお口の中の悩みや,不便に感じていること,治療に対するご希望をお話しください。これまでの歯科治療の経験や抜歯に至るまでの経緯,さらには現在のお身体の状態(通院・服薬など)や喫煙歴に関しても質問させていただきます。お口の中ではインプラントを検討している部位だけでなく,お口の中全体の精密検査を行います。

検査結果を踏まえて,治療方針のご相談をします。いくつかの選択肢もご提案しながら,お悩みに対しての最適な方法を探していきます。

歯周病治療・虫歯治療 保存できない歯の抜歯

インプラントの手術の前に,まずは他の歯の虫歯や歯周病治療を行います。インプラント手術や人工歯装着後は感染によるトラブルが起こりやすくなります。虫歯菌や歯周病菌を減らして,お口の中の環境作りをしっかりとおこなう必要があります。保存できない歯がある場合は,抜歯と同時に感染している組織の除去もおこないます。

CT撮影 噛み合わせ検査

CTを撮影して,インプラントを検討している場所の骨の量や骨の質の確認をおこないます。残っている骨の高さや幅だけでなく,骨が柔らかすぎないか・硬すぎないか,血管や神経の走行なども調べていきます。CT撮影の時期としては,抜歯から2-3か月後の骨が回復してきたタイミングでおこなうことが多いようです。また噛み合わせの検査をして,最終的な人工歯の形から逆算したインプラントの位置を検討します。

骨の移植

インプラントに必要な骨の量が不足している場合には,骨の移植をおこないます。不足している量によって,骨の移植手術のみおこなう場合と,インプラント埋め入れと同時に骨の移植をおこなう場合があります。骨の移植手術のみ実施した場合には,手術から3~6か月経過したタイミングでCTを撮影して移植の結果を判断します。

インプラントの埋め入れ手術

インプラントの埋め入れ手術を行います。歯茎に切開を加え,骨にドリルで穴をあけた部分に適切なサイズのインプラントを入れていきます。手術時にインプラントには仮の蓋を装着しますが,歯茎を貫通させて口の中に出す方法(1回法)と歯茎を閉じて覆ってします方法(2回法)があります。埋め入れ後にはインプラントと骨が結合するまで3か月程度かかりますが,骨の移植を併用した場合などは6か月程度治癒を待つこともあります。

インプラントの頭出しの手術

2回法を選択した場合は,蓋を交換して頭出しの手術を行います。手術後は1-2週間の粘膜の治癒期間が必要です。

仮歯の装着

型採りを行って,インプラント部分の仮歯を作ります。一般的には仮歯を2週間から数か月使用してもらい,見た目や噛み合わせだけでなく,発音や歯ブラシができているかどうかを確認して微調整を繰り返します。

最終的な人工歯の装着

仮歯で試行錯誤した形態を参考にして,最終的な人工歯を作っていきます。前歯など,見た目の印象に関わる部分では色合わせも慎重に行います。

メンテナンス

インプラントを長持ちさせるためには定期的なメンテナンスが欠かせません。お口の中の汚れの除去と合わせて,普段の清掃状態の確認や噛み合わせのチェックを行います。

インプラント治療の流れの例

架空の患者様を例に,インプラントの治療期間の目安を見ていきましょう。

『Aさん』 1年前に事故で上の前歯を喪失
骨や歯茎の量は十分
歯周病はほとんど問題なし

・カウンセリング 歯周病の治療
↓             (1か月)
・CT撮影

・インプラント埋め入れ手術
↓ (3か月)
・仮歯の取付け
↓     (1か月)
・最終的な人工歯の取付け

●全体の治療期間 5か月

『Bさん』 歯周病で上の前歯がぐらついてきた
保存できない場合はインプラント希望
全体的に歯周病が進行
・カウンセリング 歯周病の本格治療
↓             (2か月)
・保存できない歯の抜歯
↓ (3か月)
・CT撮影 …骨の量が不足

・骨の移植
↓ (6か月)
・CT撮影

・インプラント埋め入れ手術
↓ (3か月)
・仮歯の調整
↓       (1か月)
・最終的な人工歯の装着

●全体の治療期間 1年3か月

少し極端な例かもしれませんが,このように同じ上顎の前歯に対するインプラント治療でもお口の中の状況によって治療期間が大きく異なってきます。一般的には抜歯から必要な場合は治療期間が長くなる傾向にありまが,残っている骨や歯茎の量によっても治療期間は左右されます。正確な治療期間の判断のためには,噛み合わせの分析やCT撮影が必須と言えるでしょう。

インプラントにかかる治療期間を短くする方法

従来の進め方よりも治療期間を短縮することができる方法をご紹介します。

抜歯即時埋入

保存できない歯の抜歯と同時にインプラント埋め入れ手術を行う方法です。抜歯とインプラント手術を同時に行うため,外科処置が1回で済み,治療期間も短くできるというメリットがあります。

デメリットは,「骨の厚みや高さが十分にあること,大きな感染がないこと,炎症を起こしていないこと」などの条件を満たしている必要があり,適応できる場面が限られます。また手術の技術や症例の見極めが難しいため,インプラントに精通している歯科医師から施術されると安心です。

即時荷重

インプラントを埋め入れた後,手術当日もしくは翌日などの早い段階で仮歯を装着する方法です。インプラント手術後の歯が無い期間を短くすることはできますが,仮歯を入れてインプラントと骨の結合を待つ必要があるため(概ね2-3か月間),治療期間が大幅に短縮されるわけではありません。しっかりと結合するまでの間は,噛み合わせを弱くしたり隣の歯と固定したりしてインプラントに力が掛からないようにします。そのため食事の制限などがあることや,インプラントが抜けてしまうというリスクもあるため注意が必要です。

インプラント治療中の見た目や食事について

数カ月にも渡るインプラントの治療中はに,全く歯が無いまま過ごさなければならないのでしょうか。もちろん,奥歯が1本だけ無い場合などは見た目や食事にも支障が少ないことが多いため,抜歯からインプラントの仮歯が装着されるまでの期間,歯が無いまま過ごして頂くこともあります。

しかし,前歯の欠損などで見た目に支障がある場合,隣の歯と接着するタイプの仮歯を取付けることで,笑っても見た目が不自然にならないよう工夫をします。
また歯が複数本欠損していて見た目が悪く食事が不便になってしまう場合,インプラントの仮歯が入るまでの期間は入れ歯を装着してもらうこともあります。ただし,インプラント手術直後などは歯茎を休ませるために入れ歯の装着に制限を設けることもあります。

このように,インプラントの治療中でも日常生活にできるだけ支障が出ないよう創意工夫をしながら治療を進めています。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回はインプラントの治療期間について,大まかな目安や治療期間を左右する要因などを解説しました。
繰り返しになりますが,インプラントは時間がかかる治療法です。見た目や噛み合わせを

一刻も早く回復したとは思いますが,失ってしまった体の一部を取り戻す治療であるため,審美的で機能的なインプラント治療にかけるリハビリ期間は余裕を持って考える必要があると思います。それを踏まえて,患者様の大切なお時間を無駄にしないよう,治療期間を短くするご提案が行えればと考えております。

またインプラントの良くあるトラブルとして,「十分な説明や見積もりの提示がなく,いきなり手術の日程を組まれた」や「2回目の受診で手術を行うと言われた」など,患者様の同意を得ぬまま治療を進めようとするケースもあるようです。不安な場合は主治医にしっかりと確認を取るか,セカンドオピニオンを受けるのも患者様の権利です。お困りのことや些細なお悩みでも,ぜひお気軽にお問い合わせください。

池下駅から徒歩2分の歯医者 |ちくさ池下歯科・矯正歯科

日付:   カテゴリ:ブログ and tagged ,